■ 親子の思い出
「どうしても片付けられないね」。父親は今月21日夜、京都市の自宅の一室でつぶやいた。優里さんは2011年頃に発症。父親の負担を考えて数年後に近くのマンションで在宅介護を受けながら一人暮らしを始めるまで使っていたベッドやタンス、ピアノが、部屋に当時のまま残る。
部屋の片隅には、古びた打楽器が置かれている。
父親は01年夏、優里さんに連れられ、米ニューヨークを10日間旅した。2人で立ち寄ったカレー店で生演奏されていた太鼓のような打楽器の音色に、優里さんは気持ちよさそうに耳を傾けていた。直後によく似たものを購入し、帰国後も自宅でたたいていたという。
表面が劣化して今では使える状態にないが、捨てるつもりはない。「最初で最後の2人きりで行った海外旅行の思い出だからね」
父親は今、この部屋を寝室にしている。時折、ベッドに腰掛けて、優里さんが幼かった頃の写真をとじたアルバムをめくりながら、いとおしさを募らせる。
■ 難病患者の支援を
優里さんは発症の約7年後からブログに「安楽死」を望む思いを投稿するようになった。その後、SNSで知り合った医師の大久保 愉一よしかず 被告(44)に殺害を依頼したとみられ、大久保被告と山本直樹被告(45)(昨年に医師免許取り消し)は19年11月30日に優里さん方で薬物を投与して殺害したとして、嘱託殺人容疑で逮捕、起訴された。
2人は昨年6月、山本被告の父親(当時77歳)への殺人罪でも起訴された。現在、争点を事前に整理する公判前整理手続きが京都地裁で行われているが、公判日程は決まっていない。
父親は被害者参加制度を使って出廷することも考えており、「命を守るべき立場なのに、なぜ止めてくれなかったのか。患者に寄り添う意味をはき違えているのではないか」と話す。
事件を機に難病患者への社会的な関心が高まった。父親は「患者が『生きていてもしょうがない』と思うことがないようにサポートや理解が広がり、二度と同じことが起こってほしくない」と力を込めた。
筋萎縮性側索硬化症(ALS) 全身の筋肉が徐々に衰える進行性の難病。手足や口から動きにくくなり、最終的に呼吸困難になる。原因は不明で、根本的な治療法は見つかっていない。国内の患者数は1万514人(2020年度末時点)。
https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20220725-OYO1T50005/
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