2023年6月23日金曜日

幡野広志さんに聞く~安楽死制度を議論するための手引き09(前編)

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幡野広志さんに聞く~安楽死制度を議論するための手引き09(前編)

論点:安楽死制度を日本で作っていくことは可能か?

 これまで、この連載では安楽死制度を議論するために、どういった考え方をすればよいのか?について連載を続けてきました。

 そんな僕に「安楽死制度を日本で作っていくことは無理だと思いますよ」とご意見をくれた方がいます。
 それは、写真家で多発性骨髄腫というがんの治療を続けている幡野広志さん。

 以前は、「日本でも安楽死制度を作るべき」と話されていた幡野さん。『だから、もう眠らせてほしい(晶文社)』でも対談しましたが、この3年間で考え方がどのように変わったのか、そしてどこが変わらないのか?幡野さんの真意を確かめるべく、お話を伺いに行ってきました。

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西:あ、ご無沙汰してます~。

幡野:すみません、遅くなって。道に迷ってしまって。

西:大丈夫ですよ。もう注文してますから、ゆっくり食べながら話しましょう。
※この収録は川崎市内の天ぷら屋さんで行いました。

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西:では、さっそくですけどなぜ日本では安楽死制度はできないと思うのでしょうか。

幡野:本来、安楽死って医療行為の先だったり、緩和ケアだったり、がん患者やALSの先にあるはずだったけど、完全に政治的なイデオロギーになってしまいましたよね。だから無理だと思う。

西:政治的イデオロギー。

幡野:そう。安楽死がポリコレになっちゃって、生きることが社会的な正義で安楽死は社会悪って風潮ができあがってしまったように感じるんです。実際に、苦しんでいる患者さん、安楽死を求める患者さんはいるけれども、そういった方々のために議論していくわけではなく、「社会的な弱者が安楽死によって死に追いやられてしまう」って捉えちゃう。政治的な正しさとしては「その命を救おう」ってしてしまいますよね。

西:なるほど、「命を救おう」って言った方が、政治的には正しいから支持されやすい・・・。

幡野:仮に、与党議員が法制度化を提言したり、厚労省が「議論しましょう」とか言っても、政治も社会も反発が起きますよ。なので、制度を成立させること自体が困難なのではないかと思うんです。安楽死に反対するのが正義なんだと思います。

西:なるほど。

幡野:だから僕は、少なくともこの20年くらいは無理だと思うけど、いまの40~50代くらいの人たちががんになって、切羽詰まったときに気づくんじゃないかな。僕自身はどちらにしても日本で安楽死は無理だと思っていたから、何かが変わるわけではないけど、これから癌とかになっていく人たちがきついんじゃないかなと思う。

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西:僕は医療の現場を見ていて思うんですけど・・・「自分も、年取るんだよ」って。それが、そのように想像できない人たちがたくさんいるというか・・・永久に健康でい続けられるって思っているんじゃないかって。それが不思議なんですよね。

幡野:やっぱり、人はその状況にならなければわからないんじゃないかなって思いますよ。

西:うん。まあ・・・そうですかね。

幡野:僕、去年の秋に盲腸の手術したんですよね。それから半年くらい経つんですけど、今でもときどきお腹に激痛が走るんですよ。新幹線の中とかでドクターコールした方がいいんじゃないかってくらい。それで、おかしいなと思って主治医に相談したんですけど、そしたら「腫瘍が骨に転移していて、それで痛みが出ているのではないか」って言われたんです。それで1か月くらいかけて検査してみたんですけど、結果的に腫瘍は無かったんですね。それはよかったんですけど、僕もこの病気になって「いつか骨に来る、そしたらお終いだ」と覚悟はしていたつもりだったんですね。でも、実際にその状況になってみると、この1か月間不安で不安で仕方が無かった。だから、こんなこと言うと身も蓋も無いですけど、やっぱり病気になってみないとわからないんじゃないかなって。

西:検査の結果出るまでは、患者さんたち皆さんつらいっておっしゃいますね。

幡野:健康な人たちは「健康」という安全圏からものを見すぎなんですよ。自分が癌になという視点ではなく、癌の人を看取るって視点になっている。僕は病気になって親類縁者と縁を切りましたけど「安全圏からものを見る親族たち」に治療方針を口出されるのが、みんな怖くないのかなって思いますもん。
医療的なパターナリズムって、今の時代だいぶ少なくなってきたと思いますけど、家族によるパターナリズムが強くなっただけであって、患者の人権ってないのが現実かと思うんです。それでもみんな、「自分だけは大丈夫」って自信があるんでしょうか。

西:僕は何か、そういう話になると「意外と医者って信頼されているんだろうな」って思うんですね。仮に病気になったとしても、お医者さんがきっと何とかしてくれる、って信頼。うちらにとってはありがたい話だけど、現実の医者は十人十色ですからね。治療はともかく人生観については。

幡野:その点においては医者ガチャが過ぎるっていう部分がありますよね・・・。病院全体の口コミとかも当てにならないと、よく聞きます。よほど運が良くないと、っていうのがありますね。

(中編に続く)

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